フェルデンクライス身体訓練法 Ⅵ(M・フェルデンクライス / 安井武訳)


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八 呼吸は運動である


 われわれの呼吸は、

あらゆる情動的、

身体的活動と

あらゆる障害を反映する。



また、

体内の植物的プロセスにたいしても

敏感である。




たとえば甲状腺の障害は

特殊な呼吸法を生むが、


それが症状の診断に役立つのである。



突然強い刺戟をうけると、

呼吸がとまる。


だれでも自分の経験から、

呼吸があらゆる感情の変化や

強い情動の予感と

深くつながっていることを知っている。




 人類の歴史を通じて、


呼吸法の改善によって、

鎮静効果を生みだすことを

ねらいとしたシステムや

方式が存在している。



人間の骨格構造のしくみからすると

重力にたいして

骨格を適正に配置しなければ、


呼吸を正しく調整することは

不可能に近いといえる。




呼吸法の改造は、

間接的に

骨格筋の調整を改善して、


よりよい立ちかたや

動きかたができるようになったとき、


その度合いに応じて実現できるのである。



九 習慣の泣きどころ


 最後にもっとも重要なことだが、



人間変革のための攻撃地点として、

なぜ行動系を選ぶのかという

理由がもうひとつある。


あらゆる人間行動はすでにのべたように、

筋肉活動、感覚、感情、思考の

複合したものである。



これら行動の要素のいずれをとっても、

理屈の上では

他のかわりを務めることが

できるかもしれないが、


筋肉の果す役割は

他に比較してあまりにも大きいので、



もしこれが運動皮質のパターンから

失われたとすると、

残りの構成要素はすべて

ばらばらになってしまうであろう。




 筋肉活動パターンが

形成されている脳の運動皮質は、

連合作用を営む大脳領域の

わずか数ミリ上層に位置している。


人間が、

経験するあらゆる感情や感覚は、

その前に連合作用と

結びついているのである。




 神経系には基本的な特徴がある。

つまり、

ある行動とその反対の行動を

同時に行うことはできないのである。



いかなる瞬間にも

全神経系が実現するのは

一種類の全体的統合であり、



それがからだに現われる。

姿勢、感覚、感情、思考は、


化学作用や内分泌過程と

同じくひとつに結びついて、



さまざまの部分に分割できない

全体を形成する。


この全体はきわめて複雑で

入り組んだものかもしれないが、

その瞬間にはひとつの全体として

統合されたシステムとなる。




 このような統合が生まれたとき、

われわれは筋肉と皮膜に関係する

諸要素だけに気づくことになる。


すでにみたように、

筋肉は意識の目覚めに

重要な役割を果す。



筋肉系の変化は、

それに先立って


運動皮質に対応する変化が

生じないかぎり起りえない。



もしなんらかの方法で

運動皮質に変化を引きおこすことができ、


それによって

運動パターンそのものの

調整機能を変化させることが

できるならば、



個々の初歩的統合の意識の土台は

崩壊するであろう。




 運動皮質は

思考や感情に関係する大脳構造の

きわめて近くに位置しているため、


また、大脳組織内のプロセスには

まわりの組織へ

すばやく拡散する傾向があるため、



運動皮質内の激烈な変化は、

思考や感情にも

それに対応した効果をもたらすであろう。




 どれかひとつの統合パターンのなかに

運動皮質の決定的な変化が生じると、

全体のつながりがこわされ、


その結果、

思考と感情はできあいの

紋切型のパターンに固執することが

できなくなるのだ。



このような条件のもとでは、

思考や感情に変化を起させることは

ずっと容易である。


なぜなら、

思考や感情を意識的に伝える

筋肉の部分がすでに変化し、

もはや



いままでなじんでいた

パターンを表現しなくなっている

からである。




習慣は

その主要な支えである

筋肉という味方を失い、


はるかに変化を

うけいれやすい状態

になっているのだ。



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by sinonome-an | 2017-09-29 18:00 | 本からの資料

心と身体を観照する


by しののめ庵