身の処し方(みのしょしかた)について

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身の処し方(みのしょしかた)




自分の置かれた境遇において
取るべき行動。

どう動くべきか、ということ。
身を処する方法。

実用日本語表現辞典より



これから先の生き方のこと

ある状況下で
どのように行動するか
ということ

Weblio類語辞書より





武士道とは死ぬことと見つけたり、

とは『葉隠』に記されて有名な言葉だが、
同じ覚悟を持って
戦国の世を生き抜いた男がいた。

秀吉、家康に仕え、
伊賀、伊勢三十二万石の大名となった
藤堂高虎である。


高虎は常々こう言っていた。

「次に寝所を出る時は、
その日の死番に当たると心得ている。
そう覚悟して寝るゆえに、
物に動ずることがないのだ」


 これこそまさに
葉隠武士道と共通する
心の持ち方である。



死を覚悟することが
大事なのではない。

物に動じなければ
戦場で窮地におちいっても
正確に状況を把握し、
死中に活を求めることができる。

理非善悪も正しく判断できるので、
人物の善し悪しを見誤ったり
讒言にまどわされることもない。


中でも高虎は
後者が重要だと考えていたようで、
次のようなエピソードがある。



家康は高虎をひときわ重んじ、
二代将軍となった秀忠の相談役に任じた。

かしこまって出仕した高虎に、
秀忠は斬りつけるようにこうたずねた。

「天下泰平の時、
もっとも重要なことは何か」


父が押しつけた相談役の
力量を試してやろうと、
いきなり難問をぶつけたのである。

だが高虎は動じない。

おもむろに居住まいを正し、
次のように答えた。


「私は文盲の者でございますので
何もわきまえておりませんが、

人を正しくご覧になることが
肝要だと存じます。


大軍をひきいて
用兵をあやまらない大勇の者。

一組の大将として将兵を的確に指揮し、
任務を成し遂げることができる者。

組頭として弓隊や鉄砲隊を使いこなし、
機を逸することなく射たせる者。

たいした働きはできなくても
律儀に持ち場を守り、
身方のために討ち死にできる者。


人にはいろいろの役割がございますが、
その人物をよくご覧になって
適材適所の配置をなされば、
万事がうまく運ぶものと存じます」



そう言った後で、
猜疑心の強い秀忠に
釘を刺すことも忘れなかった。

「それ以上に大事なことは、
お疑いの心を持たれぬようにする
ことだと存じます。


上に立たれる方が人をお疑いになれば、
下もまた上を疑い、
上下の疑いのある時は、
上と下との心が離れるものでございます。

天下の主といっても
下が離れれば一人になり、
重要な時に働く家臣もいなくなります。


また上下に疑いの心があるものを
悪人が見つけ、
その間に讒言を入れて
仲違いを起こさせます。

その結果、
大勇大智の善人を失うということが
よくあるものでございます」



これを聞いた秀忠は
すっかり感服し、
以後は何事によらず
高虎に相談するようになったという。



これを伝え聞いた家康は
上首尾を喜び、
側近の天海僧正や金地院崇伝に
次のように語った。

「お前たちも、
この間の和泉守(高虎)の話を
心得ておくがよい。


人を見るということは
治にも乱にも肝要なことだ。

人を見抜けぬ大将は、
大勇大智の者を小さなことに用いるゆえ、
その働きもなく忠に励む者もいなくなる。

その身に知恵なき者は
勇知の人を見分けることができず、
鈍な男だなどと批判するが、

大いなる分別のある人は
小さなことにはたいがい
鈍感なものなのだ。


それに疑いは
上と下とを離間させると言ったそうだが、
いかにももっともなことだ。

そもそも疑いというものは、

自分の心が信用できないために
他人も自分のように
偽りが多いことだろうと思って
疑い始めるものなのだ。

そこに他の者がつけ込んで讒言し、
主人に取り入ろうとするのだ」



このエピソードは
戦国乱世を生き抜いた者たちの
人間に対する洞察力の
鋭さばかりでなく、

高虎がいかに家康、秀忠に
重く用いられたかを
生き生きを伝えている。


高虎は秀吉から家康へと
器用に主を変えた変節漢のように
評されることがあるが、

決して力ある者に
取り入ったのではない。

豊臣か徳川か、
西軍か東軍かといった
政治状況にふり回されることなく、

人を見極めていたために、
判断を誤ることがなかったのである。


しかも人を見る基本を情においた。

人情に厚いかどうかが
信頼する際のバロメーターで、

自身もまた
人に対するこまやか
気配りを忘れなかった。

戦国武将にはまれな
心やさしき男だったのである。



名将の法則
~戦国十二武将の決断と人生~ 
著:安部龍太郎

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by sinonome-an | 2017-12-01 18:00 | 東雲道場

心と身体を観照する


by しののめ庵