響きあう脳と身体 (甲野善紀 × 茂木健一郎) Ⅳ

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「知」が人を足止めする


~中略~

武術の道歌に

武術の極意を「妙」という字に託して



「妙の字は、

若き女の乱れ髪

いうにいわれず

とくにとかれず」



というものがあります。



「妙」というのは

「少女」と書きますね。

昔の横書は、右から左に書きますから。



ですから


「いう」を

「言う」と「結う」にかけ、


(髪を)「とく」を、

「梳く」と「説く」をかけて、



「妙」の世界は

言語化できない世界なのだ、


ということを言っているわけです。




妙、精妙、術という概念は、


私がずっと主張している

「矛盾を矛盾のまま、矛盾なく取り扱う」

という世界にあるものだと思います。


論理的な世界では

「あちらを立てればこちらが立たず」ですが、


妙、精妙といった世界では

普通は両立しない、

ありえないようなことが

同時に成立してします。


~中略~

敏感と鈍感が一緒にあるような世界ですね。

そういう世界は

論理では取り扱えないでしょう。



茂木:~中略~

空間的、時間的なコントロールによって、

矛盾したものを並列的に取り扱う。


そういう並列性を、

甲野さんは身体感覚のレベルで持って

いらっしゃるのではないかと思います。




甲野:明治維新以降、何でもかんでも

「科学的にしなくてはいけない」

と考える傾向が日本で強くなる中で、


そうした科学的に取り扱いにくい

同時並列性を無理矢理切り捨てて、

矛盾のないものに矮小化してきた

歴史があるんじゃありませんか。


その結果、

部分化し、矮小化してでも論理的にやる

ことが優先されるという、

本末転倒な話になってしまった。



論理に当てはめようとするあまり、

人間の能力をうんと落として

辻褄合わせをすることが

不文律になってしまったということが、


近代人の不幸ではないかと思います。

~後略~




茂木:甲野さんの議論は、表面上は

バイオメカニクスのあり方に対する批判

として展開されていますが、


最終的には

「知識」や「知」というものを、


われわれの生活、

もっといえば「人が生きる」

ということの中に


どう位置づけていくのかという問題に、

集約されていくのではないかと思います。




つまり、「あることを知っている」

ということを、

われわれが生きる生活の中に

どう活かしていくのか、



逆にいえば、

「知」というものがいかに、


われわれの生活を限定し、

制限しているのか

を考えさせる


のが、甲野さんの議論

なんじゃないかと思うんです。




脳研究でも明らか

になっていることですが、


人間の最大の強みであり

同時に欠点なのは、


「知識がある」ということなんです。


知識は、

われわれの支えてなっていると同時に、

潜在的の力を限定もしています。


先ほどの武蔵の話で言えば、

地上のはるか上のところを歩くことが

どれほど危険なことなのかを知っている

という「知識」が、


スムーズに歩くことを妨げる、

ということがあるわけですね。



甲野:知識とか意識というのは

まさに「長所即欠点」なんですね。


いちばん顕著な例で言えば、

子どもはものすごいスピードで

言葉を覚えますね。


あれは、「これを勉強しよう」とか

「覚えよう」と思わない

からだと思うんです。


「覚えたい」「覚えなきゃ」という強制が、

物を覚えるうえでもの

すごく障害になる。



そういう意識のない子どもは、

ものすごい学習能力を発揮する。


兄弟で、下の子の滑舌や文法が

まだうまくできない時に、

上の子がそれを通訳するのを見ていると、

そのことがよくわかります。


大人はさっぱり何を言っているのか

聴き取れないのに、

二、三歳年上の兄か姉が、

その弟が妹の意思をいちいち翻訳して

大人に伝えるんです。


「水がほしいと言ってるよ」といった、

ものすごく的確な通訳ができてしまう。


それは一般的な意味での

「言葉を覚える」という次元よりも

はるかに繊細で、

高いレベルの感知力でしょう。




茂木:つまり、
知識というのは論理と同じく、


非常に強い制限を脳活動、
身体活動にかけてしまう
ということですね。


さまざまな言葉や観念によって、
子どもが持っている
脳と身体の自由さを

われわれは明らかに失ってしまっている
のだと思います。

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by sinonome-an | 2017-12-29 00:00 | 本からの資料

心と身体を観照する


by しののめ庵